2010年メジャーを振り返る 〜マスターズ〜
フィル・ミケルソン(米)とエイミー夫人との歓喜の抱擁が感動を呼んだのが、米男子ツアーのメジャー初戦、伝統のオーガスタナショナルGCで開催されたマスターズだった。
当時世界ランクNo.1のタイガー・ウッズ(米)が前年末に自動車事故を起こし、それをきっかけに一連の不倫スキャンダルが噴出。約5か月間ツアー出場を自粛していたが、得意のマスターズで復帰することを決断し、注目の大会初日で首位に2打差の7位タイと相変わらずの実力を見せつけた。
それ以上に周囲を驚かせたのが、50歳となりシニアで活躍し始めたばかりの元マスターズ王者、フレッド・カプルス(米)の単独首位発進だ。新しいシューズで持病の腰痛が楽になり、第1ラウンドはなんと7バーディ、1ボギーの6アンダー66。後の世界No.1プレーヤーで悲願のメジャータイトルを狙うリー・ウェエストウッド(英)、還暦を迎えた“新帝王”ことトム・ワトソン(米)、アジアの実力者Y・E・ヤン(韓)、崔京周(韓)、そして大会優勝者のミケルソンという錚々たる2位グループを抑え、リーダーボードの最上位に名前を載せた。
第2ラウンドは午前中から強風に見舞われ、厳しいピンポジションに各選手ともスコアメイクに苦しむ中、風に慣れた英国勢が力を示す。この日ベストスコアタイとなる4アンダー68をマークしたイアン・ポルター(英)と、初日から安定したプレーを続けるウェストウッドが通算8アンダーで首位を並走。2打差の3位タイでミケルソン、タイガー、崔、アンソニー・キム(米)、リッキー・バーンズ(米)が続き、カプルスもスコアを3つ落としながら5打差の9位タイと上位をキープした。
ムービングデーの第3ラウンドはコンディションも良く、積極的にコースを攻める選手が続出。とりわけ突出していたのがウェストウッドだ。1番バーディでスタートすると、4番、8番、10番とバーディを重ねトーナメントをリード。初日から3日連続60台となる4アンダー68でホールアウトし、通算12アンダー単独トップで自身初のメジャータイトル獲得へ最高の位置につけた。1打差の2位でミケルソンが追走し、3位タイには通算8アンダーのタイガーと崔。初日首位のカプルスが通算7アンダー5位につけ、混戦を予感させる展開で勝負はクライマックスへと向かった。
運命の最終ラウンド。ドラマチックな場面が待ち受けていたのはやはりサンデーバックナインだった。ウェストウッドが前半で1つスコアを落とし、首位に並んだミケルソンが後半のアーメンコーナーを皮切りに猛スパート。12番でグリーン奥から6メートルのバーディパットをねじ込み単独トップに躍り出ると、13番、15番でもバーディを奪いパトロンたちを沸かせる。ウェストウッドに2打差をつけ迎えた最終18番では3メートルのウイングパットを難なく沈め、最終日はノーボギーの5アンダー67と圧巻の内容。見事な逆転優勝で自身4年ぶりとなるマスターズ制覇を成し遂げた。
ミケルソンにとっては2004年、2006年に続く通算3度目のグリーンジャケット。特に今回は最愛のエイミー夫人が乳がんとの闘病を続ける中での勝利とあって、その喜びはひとしおだった。マスターズの期間中、エイミーさんは応援に来ることができるかどうかも分からないほど体調が良くなかったというが、最終日には夫の知らない間にコース入り。ミケルソンが優勝を決めた直後、最愛の妻を見つけ涙の抱擁を交わした様子は世界中の感動を呼んだ。
一方、初日好スタートを切っていたタイガーは68-70-70-69と本来の強さを最後まで発揮できないまま、通算11アンダー4位タイで終戦。大会前には復帰戦でいきなりメジャー制覇かと期待が高まったが、やはりブランクの影響を感じさせる結果となってしまった。また、初日のトーナメントリーダー、カプルスは通算9アンダー単独6位に食い込み、50歳を超えた今でもメジャーで戦えることを証明した。
なお、日本勢では片山晋呉、石川遼、池田勇太の3名が出場。初出場の池田が唯一決勝ラウンドへ進み通算2オーバー29位に入ったが、2年連続出場となった石川とベテランの片山は予選落ちを喫した。